研修記

私見7 小さな本社

1998.10.30.金

From: 小山昇
Date: Fri, 30 Oct 1998 09:44:35

この頃、どんどんデジタル社会になり世の中が変貌していく中で、私は小さな本社にしていくということを、我が社の社員や仲間の社長に言っています。
それはどういう事かというと、人間は「個人」が一番早く情報を握っています。
そして、個人が一番判断が早くて、すぐにアウトプットできます。だから個人が一番早い。
それが会社になると、情報が入ってくるのが遅くなり、もちろんアウトプットも遅くなってしまいます。
ですから、やはり個人を活かせる小さな本社にしていかなければいけないのです。

今まで私は、社員が2万人の会社は大きな会社だと思っていました。
でも、2万人いる会社は、会社は大きいけれども社員は部分の事しかしていないから小さな社員です。
ところが、社員が10人の会社は小さいけれども、社員は大きな仕事をしています。質は別ですが。
そういう役目を負っているということが、わかりましたので、小さな本社にしていこうと
ものすごい勢いで配置転換をしています。4人いた経理は今は1人になりました。
それでも世間の会社から比べれば、相当シンプルだと私は思っていたのですが、
それは私の甘えとわかったので、管理部門15名を営業部に配置転換しました。

また、配置転換でこういうことがありました。新入社員で営業にいた女の子を本社の内勤部門に移しました。
それから10日後、その女の子に営業に戻れと言いました。
本人は、「私は一生懸命やりたいから暫くここに置いてくれ」、と泣いて上司に懇願しました。
私も、心情的には移したばかりでまた配転というのは、非常に忍びない思いがしたのですが、可哀相だということで彼女のわがままを聞いてしまうと、他の人も俺も俺もということになって収拾がつかなくなってしまいます。
そこで私は、彼女の上司からボイスメールが入ってきたときに、個人のわがままは許さないから、もう1回面談をしてほしいという指示を出しました。
その後、本人が「わかりました」と言ってきましたので、ひと安心しています。

会社の体質を変えるときに、目先の欲求に躍らされて何かをやると、結局は全体を動かすことができなくなってしまいます。
やはり、いつも大局にたってやっていかなければいけません。

気がついたら、すぐやる

私は、仕事のやり方として何かをやる時には、気がついたらすぐやるということをモットーとしています。
どんな良い事であっても、時間が経過した1年後とか2年後にやったのでは、もう価値がなくなってしまいます。
ですから、旬のうちにやらなければいけません。そして、良い方法が見つかったら、すぐ変えます。
ところが、ほとんどの方が何故か新しいことや変えるといった実行ができません。
新しいシステムとか新しいことを何かやると、必ず失うものがあるのです。
人が辞めるとか、商品がとかお客様がとかテリトリーがとか、失うもの無くなるものの数をまず数えます。
でも世の中はそうではなくて、どんな人も新しいことにチャレンジしてやれば、失うものよりも新たに得られるものの方が数が多く、成果が得られます。そして、やってみてうまくいかなければ止めれば良いのです。
何もやらないよりは、何かをやって失敗した方が良いと、私は思います。
ですから、会社でも社員には、「減点主義ではないよ、得点主義だよ」と言っています。

以前に書きましたが、我が社でも画像が出るコンピュータに全部変えました。これは、1年かかりました。
なかなか開発が進まなかったのですが、業を煮やして1ヶ月前に担当者を全員呼んで言いました。
「このシステムを開発しないと、新たなソフトとか部品とかコンピュータを絶対に買ってはいけない。全部決済をしない」
と言い渡しました。すると、1ヶ月で出来てしまいました。いったい我が社はどうなっているんだろうか。
やはり、新しいシステムを社内に導入するには、社長が先頭になってやらなければいけないなとつくづく思いました。
先頭にたってやるということは、作業をするということではなくて、目をいきとどかせるということです。
それをやるためには、新しく作ったシステムがうまくいかない時には、同じ人でやったならば絶対にうまくいきません。
何故かというと、前の方がやりやすいからです。ですから、私はいつも人を変えるようにしています。
新しく変えた人は前のことがわからないから、教えられたことそれが今までのやり方だと思ってやるのでうまくいきます。

また、何かをやる時に普通は同時平行というのをやります。例えば、帳票もやりながらコンピュータもやるとか、同じ事を同時に平行してやります。それはほとんどうまくいきません。
今あるものを全部捨てて、不具合が出ても良いから、新しいことだけでやらないとシステムは動きません。
それが私の実体験です。誰しもが、新しい良いシステムよりも、古い悪いシステムの方が居心地がいいし、慣れています。
ですから、新しいシステムにするのにまず大切なことは、捨てるということです。
コンピュータとかシステムは、習うより慣れろですから、やっていけば3ヶ月もしないうちに昔あったことがずいぶん忘れてしまってうまくいくものです。

それから、いらない仕事を無くすには、ミーティングやくだらないことを止めることです。
例えば3人でやっていたことを1人にすれば、2人分のいらない仕事だけが捨てられて、いる仕事だけが1人分残ります。
3人でやったことを2人でやれば、1人分の大切な仕事を、どうでもよい仕事が1人分だけ残ります。
それを、どういう仕事をやっているかと箇条書きしてみても、まったく意味がないことだと思います。
だから、物事を変える時には、まず人を減らすことです。また、システムを作る時の問題としてよくあることは、
放っておくとどうしても複雑になってしまうということです。複雑になることが良い事だとどこの会社も思っています。
そうではなくて、高度化する。高度化をするということは、誰でもが使えるようにする、なるということです。
高度化を、もっと分かりやすい言葉でいうと、 『SIMPLE IS BEST』ということです。

大きな波

小さな本社にするということは、もちろんデジタル社会になるということもありますが、現在のこの社会環境にとってとても必要なことです。私は今年(1997年)の7月の後半から、仲間の社長あるいは金融機関に行ったときに、9月頃になったら何かドスンと大きな断層が起きそうな気がするといつも話していました。
そうすると、仲間の社長あるいは我が社の幹部から、「どうしてですか、根拠は?」と聞かれますが、「根拠はありません」といつも答えます。
日本や世界を回り、そして金融機関さんを回って、いろんな会社の社長と話をしていて、なんとなく感じたことです。
実は、9月ではなくて10月になってこの大きな波がきます(この機関誌が発行されているときは、すでに来ているでしょう?)。
今まで金融機関さんは、中小企業を見るときに会社を見ていました。
今は、ほとんどの金融機関さんが社長の個人資産や社長の個人収入を全部調べて、会社と個人を一体として予審をするようになっています。
皆さん、すでにお気づきかと思いますが、ほとんどの金融機関さんの支店長の権限が半分くらいになって、本部の稟議で決まるというようになっています。
いままでは成長性や担保で審査されましたが、今は、中身(体力)を見られるというように変わってきたので、世の中に合わせて会社を変えるということが、社長の役目になります。社長は、世の中の時代の要求によって、我が社を変化させ続けるということが一番大切な仕事ではないかと思います。

これはマイツールにマガジンに連載したものです。
連載55 社長の決定
マイツールによる長期経営シミュレーション

株式会社武蔵野 小山昇