研修記

私のタバコ物語(ゲスト)

1999.01.13.水

私も18年間煙草を吸いつづけて、止めた。今年で止めて18年目になる。
肺も大分きれいになってきたと思う。

30才台も後半になると若さだけという訳にもいかず、体の具合もどこかしこ不調になるものだ。
私の場合は職業柄、会議の禁煙化が早く実施されて来ていて、またヨーロッパなどにおいても喫煙場所の制限がどんどん拡大される時期で、また肺がんとの因果関係がクローズアップもされて、これはどうにかしないとけいけないなと思い始めたのが、禁煙の出発点であった。
タバコを吸い始めたのは学生になって周囲でたくさん吸っていたからのんでみたのが始まり。
最初はボチボチでもそのうち、一気に一日0~60本くらいのヘビースモーカーになるのはたやすいことだ。
でも吸わない学生も結構いた。
ハイライトなどフィルタータバコの出始めで、けっこうニコチン摂取も少なくなるとかの宣伝にのっていたと思う。
余談だが、のみ捨てたフィルターの地球環境への影響もあるとか。水鳥や魚も誤って食べるらしい。

タバコを長くのんでいて、ある時、気がついたこと。
タバコののみ方、マナーなどについては親から教えられたこともない。
学校でも当然教えてくれないということだ。今の学生もその様だ。
だから、タバコをすっても吸殻をポンとそこらに捨てるのは当たり前だと思っていた。
足元に捨てる、靴底で踏んでねじって消す。西部劇でも「洋画」でもみなそうしていた。
歩きながらすっていて2~3歩前に火がついたままのタバコを捨てる。
歩幅をあわせて、止まることなく吸殻を消す。見ていた友達が、なるほどと言って真似を始めたこともあった。
今にして思うと、タバコのみの周囲はどうしも汚くなる。
灰、吸殻、煙、におい、ヤニ、咳、話をしていてもタバコを吸う所作が小うるさいなどなど。
本人がいいだけでタバコをのまない人にとってはほとんど迷惑なことばかりだ。

で、いよいよ禁煙に踏み切る話。
吸い続けながらも、健康のことを意識しはじめる。また、環境への影響を考え始める。
掃除をするとドアなどにべっとりニコチンが付着していることに気がつく。
室内で吸い始めるととたんに女性の職員がゴホンと咳をする。田舎に帰ると気管支の弱い母親などが咳こむ。
短くなるまですわないようにし始める。
半分くらい残してすっているのを見て、もったいないと言われたことがある。
タバコの吸殻はかならず吸殻入れに入れるように気をつけるようになる。
駅で吸っていても、腰をかがめて靴底で火を消して、吸殻入れに捨てにいく。

パソコンを買った月に禁煙することにした。理由。キーボードに灰が降りかかる。
大きな(当時は8インチの)フロッピードライブにタバコの煙が吸引されて、これは故障の原因にるなのではないかと思ったから。体の調子も悪く、そろそろ止め時だと思った。
自分にとってまだよいと思っても周囲、他人への影響・迷惑の方がどう見ても大きいということは明白だから。
その度に外に出たりするのもわずらわしい話だと思ったから。

これも余談だが。1年前だか、ソウルの金浦空港の喫煙室を覗いてみた。
空港内の待合室の一部をパーテーョンで仕切って、ドアがついて、完全に隔離されている。
ドアを開けて見た。いがらっぽい臭いが充満していたが、何人もの人がその中でモクモクとタバコをすっていた。
大きな換気扇がついていたようだった。禁煙コーナーというのはよく見かけるが、完全な部屋になっているのはここで初めて見た。異様な光景だった。

結果的にそのまま、タバコはやめた。今は嗅ぐのもいや。まったく吸いたいという気がない。
時々、煙をふかす真似をしてみる。こういう時は呼吸が浅くなっていることがわかる。
呼吸を長くすることを意識してやると禁煙に役に立つようだ。

3か月くらいは禁断症状が出る。水をのむ。飴をなめる。禁断症状だけは無理をしてもしのぐよりほかはない。
酒をのむ人は酒を飲んだら煙草を吸いたくなるという。朝の一服もそうだ。これもしのぐよりほかはない。
ずいぶん昔、ブタ箱に入った時、玉が出ないからといってパチンコ台をぶっこわして放り込まれたチンピラと同じお部屋(房と言う)になった。
その男が、時々、ポケットをさぐってタバコを取り出す真似をして、口に一本くわえ、マッチをすって、一口吸って、フーッと大きく煙を吐き出す真似をしていた。
がまんできないくらい吸いたかったのだと思う。あの気持ちがわかる。
取り調べの時、差し入れのタバコは吸わせてもらえる。
1本取ると見せて、2本取ってパンツの中にかくして、房に持ち込んで、よろこばれたことがある。
どうしてブタバコの中で吸えるのかって? それが吸えるのです。長くなるのでこの話はここでやめる。
脱線のついでだが、それから処分保留でパイされたあと(つまり釈放のこと)の、なにはさておき、とりあえずの一服はまさに恍惚境、うまいっという感じそのものである。
最初はそそくさと、二本目はゆっくりと味わいながら、このうまさは格別なのだ。
だから、タバコは簡単にやめられないということなのだ。中毒だから。

ただ「しのぐ」と言っても意志力の問題ということではない。

よく意志が弱いから自分はだめとか、タバコをやめられるのは意志が強いのですねと言う人がいる。
夫がタバコをやめられないのは意志が弱いからだと言う奥さんもいる。
が、それは多分まちがいで、タバコをやめるといっても、意志だけではどうにもならないし、我慢は結局、長続きはしないのだ。好きなのに我慢しても長続きはしない。
やめようという最初の意志は必要だが、あとは意志だはでは無理だろう。

タバコを二度と吸いたくないという状態にするにはタバコが毒だと思えるようになることである。
例えは悪いが、毒入りカレーと同じだ。
それを少しでも体験した人はカレーを二度と食べたいとは思わないだろう。見るのも嫌になる。

タバコも毒だと思うこと。健康によくないなんていうのはまだ甘いので、毒ということが頭に入れば禁断症状も凌ぐことができる。
ニコチン中毒なのだから禁断症状も少々は出るのはあたり前だ(体が中毒、脳は中毒ではない)。
初めの方でも書いたが自分にとって毒だというだけではなく、周囲の人にとっても毒だという意識を持つことが大事だ。

潜在意識に入れるという話はよく聞く。
寝る前に鏡に向かってタバコは毒だ、私はやめる、かならずやめられるなどと言うと潜在意識に入る。
天風式だ。これくらいは簡単なことなのだからやってみたらよい。ただし私はここまではやらなかったが。
Oリングテストなどもタバコは毒だということを納得させる(体に)よい方法かもしれない。
目に見えるから毒を具体的なイメージにすることができる。
ニコチンで真っ黒になった肺の写真などを見るのもよいかもしれない。脳の中身を変えるのだ。

他人のふかしたタバコの煙がいやになったらしめたもの。

タバコをやめてわかったこと。臭いに敏感になる。嗅覚が復活する。
今までこのにおいに気がつかなかったのかと思う。麻痺しているような感じだ。
それから手指の先の温度が上がる。
ニコチンを吸引すると、末梢血管が収縮して血流が悪くなって体温が下がるらしい。
食べるものがおいしくなる。食べすぎに注意すること。
吸いたいのに吸えないという時のイライラがなくなる。衣服や指先のヤニの臭いから解放される。
タバコの不始末による出火の心配がなくなる。周囲に気兼ねしながら吸わないですむ。タバコ代が浮く。
私は18年間で100万円吸って止めた。
乗り物でも禁煙席を選ぶことができるし、タバコの煙に悩まされることなく旅ができる。よいことばかりだ。
肺ガンや脳卒中の確率も下げることもできる。ポイステで逮捕されないかという心配をしなくてもすむ。
仁丹やガムなどにたよらなくてもすむというのもある。たばこのにおいのする場所には近づきたくなくなる。

タバコのみ(のむ人)はおかしなもので、何か起こって「タイヘンダ」ということになったら、まず、タバコに火をつけて、一服しないとあたまがまわらないのだと自分の経験でも思うことがある。
たぶん、血圧の変化などで、生理的な影響があるので、タバコの吸引で調整するということになるのだと思う。
何をするにも入口出口が決まっていて、食後の一服などもまさにそれで、生活習慣病ということばがあるが、習慣になってしまっているので、それを変化させるのは自力ではけっこうむつかしいということだ。
拘置所や刑務所では、吸えないから、あきらめるのか、そのうち吸うことは忘れるようだ。
ただし、出てきたら、多分反動もあって、シケモクを拾ってでも吸うようになると思う。
タバコをのむ人にはいいこともいっぱいあるのかもしれないが、それは吸うことを前提とした話だから、吸い続けたいと思ったら、そうするよりほかはない。
でも吸わない方がいいのかなと思い始めたら、吸う度にそれが反復されてストレスを常に生みだすような状態になるから、やめた方がいいという気持ちが50%以上になったら、きちんと止める方策(行動)をとるのがよいのかもしれない。

自分も18年間吸ったから、吸っている人にすぐやめろとか、おしつけるつもりはないし、現にまだタバコも販売機で1千万くらい売っているのだから、せいぜい、ポイステしないようにとか、周囲の人の迷惑を考えてとかいう注意書きをするくらいにとどまっている。
ただし、大学の移転を機に食堂など1階から3階まで全館禁煙にした。
守らない学生も多いから困っているけど。さすがホール内での禁煙は今はほとんどない。
タバコの販売機をおくのをやめて、個人的には小売免許を放棄してもいいとは思うが、タバコをのむ人(メンバー)からの抗議(強いのかどうかやってみなければわからないが、気弱な困るという声にもなるのかもしれない)も考えられるので、今すぐという訳にもいかない。
でも学内で売るのを止めたら、掃除をする人も随分らくになるはずだ。
やめたくないのにやってみることはないが、やめようかなと思った(本心から)人には何かの参考になるかもしれない。
サントリー・フードビジネス・スクールでもワインなどのテースティングをするので教室内は禁煙。
におい管理もきびしい。食品、外食、ファッション関係、住宅、メンテ関連の産業など、これからはどんどん採用条件にたばこをすわないことが入ると思う。
製造も営業もやっぱりよくないのだ。においのしないタバコの開発も進んでいるようだが。
タクシーでもタバコのみの運転者の車は気分がよくない。
営業先でタバコを吸うだけでも商談に影響するはずである。
TVや映画など、映像はにおいを伝えないから、みかけのかっこよさだけではだめのようだ。

大学でも見かけるが、室内禁煙になっているので、外に出てタバコをすっている。
時間給○千円くらいの連中が、5分でもタバコをすうとそれで650円くらい、それを1日数回やっているから、タバコをすうだけで3千円くらい稼いでしまういい身分ということになる。
そういう比較は企業の中でもよく言われていることだ。

大学の先生がドイツ語の時間の間の休憩でタバコを吸って、君達も吸いたいなら吸えと言った時代もあった。

1999年1月13日  ゲスト