研修記

日本語どうしなのに通じない…普通の会社は不通の会社?!(ゲスト)

1999.01.12.火

仕事の科学研究会 主幹  行本 明説
()は小山 昇

今回は、社内外のコミュニケーションを良くして、強い組織、会社を作るための「コミュニケーション担当重役(CCO)」の設置をするにあたって、社内外のコミュニケーションの実態について考えてみよう。

東京近郊の小金井市に、とってもおもしろい会社がある。
小山昇氏(http://www.mmm.ne.jp/koyama/)が社長をつとめる株式会社武蔵野だ。
株式会社武蔵野は、ダスキン事業を中核に、環境事業、情報通信事業など多角的な事業展開をしている。
パート、アルバイトを含めた従業員総数400名の企業である。

この会社のすごいところは、小山社長の指示が全従業員に伝わるまでの時間が、かかったとしても、たったの2時間というものすごいスピードにある。
2時間以内に伝わるだけでも驚異的だが、更にすごいことに、伝わるだけでなく、全従業員が、その指示を理解し、行動に移せる環境を持っていることだ。
普通、従業員が400名もいれば、社長の指示が全従業員に伝わるのに、早い会社で2?3日、ひどい会社になると一生伝わらないと言うところもざらにあるが現実だ。
更に、その指示の内容を理解し、即座に行動に移せる会社となると皆無に近い。
これが実態で普通の状態でもある。2時間で伝わらないとなげく必要も、悲観する心配もない。
ただ学べばいいだけだ。
そこで、株式会社武蔵野を6年間ウオッチして来た武蔵野フリークとして、学ぶべきところを紹介させてもらおう。
それは、株式会社武蔵野から、学ぶことが、「コミュニケーション担当重役」設置の大きなヒントになると確信しているからでもある。

ちなみに、株式会社武蔵野には、「コミュニケーション担当重役」という役職の方はいない。
強いていえば、その機能を小山社長が自ら行なっている。紹介してみよう。

1. 伝わらないのがあたり前という発想
株式会社武蔵野には、「経営用語解説」なるものが、存在する。
これは、社内で使う言葉を小山社長が自ら定義したものだ。
作成のいきさつは、「同じ(言葉)日本語を使いながら社員一人一人の認識に微妙な差があり、それが言った言わない論争になったり、仕事がスムーズに進まない根本原因」と小山社長が気づいたことによる。
当初は、会社のその年度のバイブルともいえる経営計画書に出てくる主要な言葉数十語からスタートしたが、今では約3000語近い立派な辞典となっている。そのいくつかを紹介してみよう。
「愛・・関心を持つ事です。」にはじまり、「ワンマン経営・ワンマン経営のみが正しい経営です。
社長は自らの「経営理念」を持ち、・・中略・・経営計画を社員によくよく説明して協力を求め、経営計画の最も重要な施策は自ら取り組み、他は任せる。」まで、様々な言葉が明解に説明されている。

しかし、これを単に印刷し、社員に配布するだけでも大変なことが、小山社長は、これをテキストにして早朝勉強会を、毎日行なってその徹底をはかる念の入れようである。
そこまでする理由は、「言っても伝わらないのがあたりまえ」という発想だ。
普通にやっては伝わらない、動いてくれない。少しでも伝わり、少しでも動いてもらうには、それなりの努力と環境整備は不可欠という小山社長の哲学によるものだ。
日本の企業の経営者で、小山社長のようにビジネスの原点、コミュニケーションを位置づける方は、ほとんど天然記念物といってもいいだろう。
日本語でコミュニケーションするように、「武蔵野人は武蔵野語」で仕事をする。これが小山社長のやり方である。

2.
情報ツールの徹底活用とコミュニケーションの仕組みづくり
さて、社員の共通言語をいくら統一してもそれを伝えあう術がなければ、やはり、コミュニケーションはできない。そこで、小山社長は徹底した情報武装を行なっている。
それは、ボイスメール、ザウルス、E―メールを柱に行なわれている。
この3つのツールを全従業員が使いこなしている。失礼ないいかたかもしれないが、50過ぎのパートのおばさんもちゃんと使っている。使っているだけでなく、新人社員へのレクチャーは、そのおばさん達が行なっている。
つまり、不得手な人も人に教えることにより、使い方をマスターせざるを得ない訳だ。
これは、ツール定着のための立派な仕組といっていい。

株式会社武蔵野では、この3つのツールを使いきって、社内のコミュニケーションを活性化している。
ボイスメールは、電話を使って情報交換をする。いわばE(?)メールの音声版だが、この導入により社長の指示が、全従業員に2時間以内で伝達できる。また、この活用により、伝言メモは存在しない。
不在社員に入ってきた以外からの電話は、受けた社員が伝言メモにするのではなく、ボイスメールで用件を不在社員に伝えている。また、社員どうしの社内電話もない。
これもボイスメールで行なっている。この導入で、伝達スピードが格段に早くなっただけでなく、電話応対、取次業務が減り、その分事務作業の効率化が実現し、一挙両得の状態である。

会議、打ち合わせではザウルスが活躍する。議事録等はザウルスの光通信機能で参加者全員に共存される。
ちなみに、小山社長がザウルスで発信した情報が全従業員に到達するまでの所要時間は約2日間だ。
(現在はEメールに添付するので、数時間後には全員が知る。)
いかに情報化された会社でも、人づてにつたえるとそれだけの時間はかかるのだ。
そこでだ、メールの導入となった。これだと、言葉でなく書面で伝える内容も以前より、確実に早く伝えることが出きる。
ちなみに、Eメール定義のため小山社長はおもしろい取り組みをしている。
それは、給与明細を紙からEメールに変えたことだ。これだと、従業員はいやでもEメールを使わざるを得ない状況だ。
小山社長はツールを単に導入するだけではなく、それを実務に活かせる考え方のしくみに尽力している。
これは正しく、コミュニケーション担当重役の大事な仕事である。