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日本語訳

 

社員の会社に対する忠誠心を向上させるべく、
日本企業は最も慈しまれてきた好況期の伝統を復活させつつある。

 

新宿かに道楽本店の個室では、5人の20代の若者が小山昇氏を取り囲んでいた。小山氏は株式会社武蔵野という東京の清掃会社の60歳になる社長である。小山氏は腕時計を見た‐現在、8時30分である‐そして、宴会の場所を移動することを告げた。「よし、我々はこれからホテルのバー、寿司、ショーパブ、キャバクラの順番に行こうじゃないか」と彼はてきぱきと言った。この“飲み歩き会”に参加することを進んで買って出た若いサラリーマンは、息をのんだ。「本当に全部行くのですか?」

 

もし、日本の酒を飲めてなんぼという企業風土がソニーのベータマックス(注1)のように過去の遺物であると考えているのなら、それは今一度考え直すべきだ。日本の長い経済不況の間の10年以上にも及ぶ(禁酒は言うまでもなく)緊縮財政後、多くの日本企業は今日、活況を呈している。そして、それらの企業はにわかに景気づいていた1980年代の日本の法人組織の特質とも言える商習慣を再び復活させつつある。社長自らが勘定を持つ“飲み歩き会”だけでなく、“社員旅行”や“創業者の墓参り”を毎年実施している。
また他企業では独身寮の提供も復活してきている。「我々は、職場のコミュニケーションが徐々に失われつつあるとつくづく実感した。」と人事総務部長の松山慎二氏は説明する。同氏の会社であるアルプス電気は、約3000名にものぼる社員を全社的な運動会、またはミニオリンピックの場に集めるために、この14年間で数百万ドルを使った。松山氏によると、ドッジボールや大縄跳びを一緒にプレーした経験を分かち合うことが、「人々が共通の目標に向って団結する助けになる」という。

 

組織力と呼ばれる団体精神と一体感を、日本企業は再び活気付けようとしている。一世代前は、大学を卒業すると集団で企業に就職し、一緒に住み、一緒に飲み、社内で結婚することもしばしばで、最後は一緒に退職した。こうした緊密な企業風土は、国家的な労働政策によるものであり、日本の華々しい経済成長によって支えられてきた。しかし1990年代、日本が落ち目になると、それら全てが終わりを迎えた。安い労働力とより効率的なビジネスモデルの脅威に晒され、日本企業は次第に能力ベースの報酬や雇用者間での競争といったアメリカの経営管理概念(経営コンセプト)を採用するようになった。「日本人はグローバリズムを、単にアメリカのビジネス方式の導入だけでなく、過去との決別として捉えている。」と、イシダジュン氏は語る。同氏は東京を拠点としたビジネスコンサルタント会社であるWill PMのCEOである。「会社の飲み会やイベントはもはや必要とされていない。グローバリズムは、もはや自分のことだけを考える個人主義以外の何者でもない。」

 

しかし、ここ数年経済が持ち直してきていることもあり、多くの経営幹部はこれまで導入してきたアメリカ式のビジネス方式が行き過ぎではないかと思うようになっている。個人よりも組織を重んじ続ける日本の企業風土に仲間内の熾烈な競争を導入したことが、労働者の不満を生み出しているのである。企業への忠誠心を再び築き、離職率を下げるために、キャノン・近鉄・富士通といった大企業は近年、成果報酬制度を改める。もしくは廃止し、年功序列制度を復活させている。それと同時に、三井物産では5カ所の独身寮を再開し、年間百万ドル近くのお金を費やしている。「我々は、独身寮での共同生活が、若い社員同士のコミュニケーションや個人間のスキルを助長することを望んでいます。」と、人材育成マネージャーである竹口等氏は言う。雇用者達は、それに積極的に応えている。寮独特の束縛や風呂場の共同使用などにもかかわらず、24歳のMさんは東京の中心部にある実家から105人の女性が住む独身寮へと引っ越した。通勤時間が倍になったにもかかわらず、彼女は独身寮での生活はそれに見合う価値があると言う。「自分の抱える問題について他の人と話し合えるのは、独身寮ならではのことです。」とMさんは言う。

 

企業は同様に、他の方法で社員間の友情と忠誠心を育成しようとしている。例えば、東京の広告会社であるBilcomは各新入社員に、週末の課題として今までで最も心を打つ個人的な経験を3分間のデジタルスライドショーにまとめさせ、それを皆で共有させるようにしている。社員の一人は、9月11日のテロ事件が自分の仕事に対する展望をどれだけ変えたかを語り、また別の者は大学でゲイであることを告白した同級生から如何にして強さを学んだかを語った。会社社長である太田茂氏は、「喜び・怒り・哀しみ・楽しみといった、それぞれが辿ってきた人生の喜怒哀楽を共有することによって、家族的な会社の新しいカタチを生み出すのです。」と語る。

 

このような試みにもかかわらず、日本企業は過去の栄光を取り戻すことは難しいと感じている。なぜなら、今日、日本の労働者の3分の1はパートタイム労働者であり、若い雇用者達は特に、終身雇用の安心感よりも仕事の流動性を重んじる傾向にあるからだ。
確かに、小山昇氏の土曜夜の飲み会で下田枝里さんは同僚に、「(この職場の人たちは)家族のように感じるわ。」と打ち明けていた。

 

注1:家庭用のビデオの規格争いで、ソニーのベータマックスはVHSに敗れた。

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